文献ゼミ・水田土壌における中干しによる微生物的メタン生成と酸化の調節

今回は5月9日に発表した文献について紹介します。

タイトル:Regulation of microbial methane production rice
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21198683

【概要】
水田土壌における(1)長期的・短期的落水のメタン放出抑制効果の測定と(2)長期的・短期的落水がメタン生成古細菌・メタン酸化細菌の活性および群集構造へ与える影響を調べました。メタン生成古細菌の阻害とメタン酸化微生物の促進の両方が、落水によるメタン放出の減少に寄与していました。

【背景と目的】
 メタンは二酸化炭素に次いで重要な温室効果ガスと言われています。そして水田は生物由来のメタンの主な発生源のひとつです(全放出量の5.3〜19.2%)。
今後、人口増加に伴い米需要が増加すると考えられていますが、コメ需要に合わせて水田を廣げることでメタンは20年のうちに65%増加すると見積もられているそうです。

そこで、メタン放出を減少させる戦略として中干しなどの水管理(落水)が有望視されています。生物地球化学的モデルによる予測では、中国の水田土壌において40〜56%メタン放出を減少させることができると考えられています。
 モデル化にはメタン生成、酸化、土壌から大気への輸送に関わるプロセスの理解が重要ですが、
メタン生成、酸化の微生物的メカニズムと、中干しに対する応答について詳細は明らかにされていません。

中干しの影響は複雑だと推測されますが、メタン生成活性だけでなく、古細菌の構造も変化する可能性が考えられていますが明らかではありません。
メタン酸化微生物群は主に根圏、表層土壌に生息しており、その活性は酸素、メタン、窒素の利用性に依存しています。現在までに落水がメタン酸化微生物群に与える影響はほとんど分かっていません。植物体を除いた土壌で、落水がⅠ型メタン酸化細菌を促進するという報告があります。

この論文の目的は
(1)3つの水管理体制でメタンの動態を測定、比較すること。
(2)メタン生成古細菌とメタン酸化細菌両方の存在量と構成を測定し、それらをメタン放出の動態と結びつけること
(3)短期と長期落水の間でメタン生成古細菌とメタン酸化細菌両方の存在量と構成を比較することの3つです。

【要約】
土壌の落水は水田土壌からのメタン放出を軽減する最も有望な手法の一つです。しかしながら、メタン放出に対する落水効果の微生物的機構はほとんど明らかにされていません。この研究では、筆者らは短期的(それぞれ5〜6日を4回)と長期(10〜11日を2回)落水サイクルのメタン放出への効果を測定し、DNAレベルで中国の水田土壌におけるメタン生成古細菌とメタン酸化細菌の存在量と構造の応答を解析しました。稲のバイオマス生産は落水と連続的湛水の実験との間で同様でした。メタン放出速度はしかしながら、長期と短期サイクルで59%と85%、それぞれ減少した。定量的(リアルタイム)PCR解析の結果、古細菌群の全存在量は複数回の落水の後40%減少し、メタン生成古細菌の増殖に対する落水の阻害効果を示唆しました。しかしながら、T-RFLP解析で決定されたメタン生成古細菌群集構造は根圏と土壌、表層土壌の間では変化したが、落水の影響を受けないままでした。メタン酸化酵素の機能遺伝子pmoAの定量PCR解析の結果、根圏土壌のメタン酸化微生物の存在量は土壌の落水の後に2から3倍に増加し、メタン酸化微生物の増殖の促進を示唆しました。根圏におけるメタン酸化ポテンシャルもまた有意に増加しました。さらには、落水はメタン酸化微生物群の変化も引き起こし、根圏と表層土壌ではⅡ型メタン酸化細菌が増加しました。したがって、メタン生成古細菌の阻害とメタン酸化微生物の促進の両方がメタン放出が減少した原因の一部でした。メタン酸化微生物群はしかしながらメタン生成古細菌群と比較して土壌の落水に対してより敏感に反応するようでした。

(2011年5月9日)