文献ゼミ・日本の水田における土壌深度に伴う細菌と古細菌群集の垂直変化

5月16日に発表した文献について紹介します。


タイトル:Vertical changes in bacterial and archaeal communities with soil depth in Japanese paddy field

http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1747-0765.2010.00511.x/full


【概要】
物理化学的特性の異なる3地点の水田土壌を用いて細菌・古細菌群集をPCR-DGGE法によって解析したところ、細菌・古細菌群集は土壌深度に伴って類似した垂直変化を示しました。これは水田土壌における特有の土壌生成過程を反映した異なる微生物群集の垂直発達を示しました。


【背景と目的】
水田土壌は特徴的な土壌生成過程を持つことで知られています。例えば、耕起、湛水、代掻き、排水などの人工的な土壌管理が繰り返し行われることで、長年にわたる作土層と下層土の肥沃化により、鉄、マンガン、無機質、栄養塩類、有機物などの浸出がもたらされます。この浸出と肥沃化によって土壌が幾層にも分化します。分化作用の過程は気候と土壌型、土質、場所、地下水面などの物理化学的な条件に影響され、これらの働きにより水田土壌に特有な土壌層が形成されます。物理化学的な条件の影響だけでなく土壌層の生成は微生物によっても行われます。土壌微生物群集によって行われる土壌生成の役割を理解するために、土壌微生物群集の調査を行うことは重要です。
現在までに、作土層表面の微生物群集を対象とした研究は行われていますが、下層土の微生物群集を対象とした研究、土壌層の微生物群集構造に関する研究はあまり行われていません。また、稲わらを下層土に加えた際、下層土でメタンが生産されたなど、メタン生成古細菌が水田の下層土の炭素流動に関与している可能性も示唆されました。
そこで、筆者らは土壌性質が異なる愛知県の立田、長久手、一宮の3地点の水田を調査対象とし、PCR-DGGE法を用いて土壌層の細菌、古細菌群集構造、メタン生成古細菌群集についての解析を行いました。


【要約】
愛知県の立田、長久手、一宮の日本の水田における土壌深度に伴う細菌と古細菌群集(主にメタン細菌)の垂直変化は、ポリメラーゼ連鎖反応—変性剤濃度勾配ゲル電気泳動PCR-DGGE)と定量PCRで調べられました。全水田は沖積地に位置しており、地層によって土質が異なっていました。長久手と一宮の水田はそれぞれ灰色高地土と灰色低地土の水はけの良い水田であるのに対し、立田の水田はグライ土壌の水はけの悪い水田でした。抽出されたDNA量は深さ20cm以下で大幅に減少し、 全水田の深層において低レベルで残存していました。メタン生成古細菌のメチル補酵素M還元酵素αサブユニットをコードしているmcrA遺伝子数は、長久手と一宮の水田の深度とともに大幅に減少していました。また、多くのmcrA遺伝子が立田の水田の土壌層の至るところで保持されていました。細菌と古細菌群集のDGGEバンドパターンのクラスター解析では、各水田のDGGEバンドパターンが立田の水田の微生物群集を除いて上層と下層の2グループに分類されました。群集のそのような違いは、水稲根の分布とおおよそ一致していました。古細菌群集の代表的なDGGEバンドの配列解析は、Methanomicrobiales Methanosarcina spp.、 Methanosaeta spp. 、Methanocellales Methanobacteriaceaeに属する様々なメタン細菌が作土層に存在することを示し、一方でMethanosarcinalesクラスターZC-Iグループの中の難培養性古細菌は作土層のすぐ下で優勢になっていました。メタン細菌以外の古細菌長久手と一宮の水田の深部土壌に生息していました。この結果は、水田の細菌と古細菌群集の個体群と構成が土壌深度に伴い明確に変化することを示し、水稲根の分布と地下水位が下層土の個体群と構成に影響を及ぼす可能性を示唆しました。

(2011年5月16日)