文献ゼミ・イギリスの川における、塩分濃度勾配に沿った堆積物中の硫酸還元細菌群集の空間的動態

今回は5月23日に発表した文献について紹介します。

タイトル:Spatial Dynamics of Sulphate-reducing Bacterial Compositions in Sediment along a Salinity Gradient in a UK Estuary

http://www.jstage.jst.go.jp/article/jsme2/22/1/22_11/_article

【概要】
イギリス東部のエセックス、コルネ川における堆積物中の塩分濃度勾配に従った硫酸還元細菌の群集構造の違いについて調べました。塩分濃度の異なる4地点の堆積物サンプルを解析し、硫酸還元細菌の分布について、クローンライブラリーと、得られたクローンのdsrA遺伝子の解析により調査しました。結果として、塩分濃度の違いと硫酸還元細菌の分布の異なりが確認できました。


【背景と目的】
 硫酸還元菌(SRB)は、硫酸塩を嫌気環境下で異化的に硫化水素に還元する細菌であり、湛水土壌、湖沼、河川、海洋など様々な環境に存在しています。硫酸塩の多い海洋では圧倒的にSRBが存在しており、沿岸性海洋堆積物における有機物の約50%を硫酸還元菌が嫌気的無機化しているという報告もあり、炭素や硫黄の循環において寄与が大きいと考えられています。
 淡水に生息するSRBは、海洋に生息するSRBよりも低い硫酸塩濃度で硫酸還元することができるため、硫酸塩に対してより強い親和性を持っていることが考えられます。この違いから筆者らは、淡水と海水に生息するSRBの群集構造が異なっているのではないかと考えました。そこで筆者らはイギリスのエセックスにある、コルネ川の塩分濃度の異なる4地点、主に海水であるAlresford Creek、汽水であるThe Hythe、主に淡水であるEast Hill Bridge、淡水であるThe Weirから堆積物コアをサンプリングし、全てのSRBが持っているdsrA遺伝子(異化型亜硫酸還元αサブユニット遺伝子)をターゲットとして、SRBの群集構造をクローンライブラリーによって解析しました。



【要約】
 硫酸還元細菌の多様性は、イギリスのエセックスにあるコルネ川河口で、環境勾配に沿った堆積物について調べられています。DNAサンプルは、4地点から採集され、その4地点とは、主に海水であるAlresford Creek、汽水であるThe Hythe、主に淡水であるEast Hill Bridge、淡水であるThe Weirです。SRB群集構造は、堆積物DNAを直接抽出して用いたPCR増幅、クローニング、そして異化型硫酸還元αサブユニット領域(dsrA)のシーケンシングにより評価されました。dsrA配列の大部分はDesulfobacteraceae科、Desulfobulbaceae科、そして培養できないdsrA系統樹中で深く分岐したグループの仲間と関連性がありました。Desulfobacteraceae科と、Desulfobulbaceae科のグループの両方において、塩分濃度に関連した分布のいくつかの証拠がありました。xenologue FirmicutesDesulfotomaculum属と関連したクローンや、系統的に別のColne group 3は、淡水のEast Hill BridgeやThe Weirのみで検出されました。反対に、未分類のグループのColne group 1と関連したクローンは海や汽水の場所のみから見つかりました。主に海水のAlresford Creekと汽水であるThe Hytheから明らかにされたdsrA配列の組成の統計解析は、お互いに著しく異なっていませんでした(P>0.05)が、主に淡水のEast Hill BridgeとThe Weirの統計解析とは著しく異なっていました(P<0.05)。East Hill BridgeとThe Weirからの配列はお互いに著しく異なっていませんでした(P>0.05)。提示されたデータは、塩分濃度と硫酸塩濃度がSRB群集構造を決定している重要な要因であるという見解を支持するためのいくつかの証拠と共に、河口に沿ったSRBの複合した分布を明らかにしたものを示しています。