Anaerobacterium chartisolvens gen. nov., sp. nov.,について

 青森県五所川原市金木の水田土壌を接種源、定量濾紙を基質とした嫌気性セルロース分解細菌計数用MPN培養液から分離したのが絶対嫌気性セルロース分解細菌T-1-35株です。2003年に分離したままになっていたのを2011年からHさんが詳細に解析してくれました。この株はグラム陽性で大きな枠組みの中ではClostridiumのグループに位置付けられるのですが、普通のClostridiumとは異なり胞子をつくりません。そのくせ、90°Cで10分間加熱しても死なないという変わった性質がありますし、培養液のまま30℃に数年置いても増殖活性を維持しています。

T-1-35株細胞断面の透過型電子顕微鏡写真像

 16S rRNA遺伝子を用いた系統解析によってClostridium rRNA cluster IIIに位置づけられることがわかりました。以前は絶対嫌気性で、内生胞子をつくり、グラム染色陽性であり、異化的硫酸還元を示さない細菌をすべてClostridium に分類していたのですが、分子系統解析によっていわゆるClostridium とは系統的に多様な細菌の集合であることがわかりました。現在ではClostridium rRNA cluster I のグループに含まれる種が狭義のClostridiumとされています。私達が分離したT-1-35株はClostridium rRNA cluster IIIのグループなので新しく属名を考えなければいけません。


 分子系統解析ではT-1-35株と最も近縁なのがBacteroides cellulosolvensWM2株でした。なぜ、Clostridium rRNA cluster IIIの中にBacteroides属の細菌がいるのでしょうか。結論から言うと誤分類によるものです。Bacteroides cellulosolvensが記載された当時(1984年)は、形態的特徴、生理生化学特徴、化学分類学的特徴(脂肪酸組成など)に基づく分類が主流でした。基準株であるWM2株が絶対嫌気性、グラム染色陽性、非胞子形成であったためにBacteroides属に分類されたわけです。


 T-1-35株とBacteroides cellulosolvensWM2株は近縁ですが、別属に分けるのに十分な形質と系統の差異がありました。従って、新属新種Anaerobacterium chartisolvens (紙を溶かす嫌気細菌の意味)を創設し、T-1-35株を基準種としました。一方、Bacteroides cellulosolvensは誤分類であることが明確なので新属Pseudobacteroides を創設し、新組合せPseudobacteroides cellulosolvensを提案しました。