文献ゼミ:共生黒色酵母は菌栽培性アリにおける抗生物質による防御効率を危うくする

今日は5月30日に発表した文献を紹介します。

【タイトル】
BLACK YEAST SYMBIONTS COMPROMISE THE EFFICIENCY OF ANTIBIOTIC DEFENSES IN FUNGUS-GROWING ANTS

論文掲載先
http://www.esajournals.org/doi/full/10.1890/07-0815.1

【概要】
菌栽培性のアリであるApterostigmaの種はある種の真菌と放線菌と共生して生活しています。真菌はアリに食料として栽培され、放線菌はアリの体表に生息し、その真菌に寄生する病原菌の働きを抑制する抗生物質を出すことで、アリと共生しています。今回アリから分離された黒色酵母がこの放線菌の抑制に関わっているという可能性があり、アリと共生微生物を用いた実験でその黒色酵母の他の共生微生物との関わりを調べました。

【背景と目的】
 Attini族のアリは、古くから彼らが食物として栽培してきた真菌との絶対的な共生を営んでいます。菌園にいる外来性の微生物の除去や、菌園の有害な廃棄物の管理という衛生学的背景から、菌栽培アリが自分らの菌園を守るための進化した多様なメカニズムをもっていますが、これらの防御機構にもかかわらず、アリと真菌の共生関係は、Escovopsis属の特殊化した病原体の系統に寄生されています。この病原菌から真菌の収穫物を守るため、アリはPseudonocardia属(放線菌)の細菌と共生関係を結びました。特殊な外分泌線に繋がっている特殊化したクチクラ構造の外部または内部にその共生細菌は普遍的に存在し、この構造は細菌の生育を援助するために養分を提供していることは明らかです。これより、菌栽培アリの共同体は、正と負の両方の方法により直接的・間接的に影響をうけていることになります。
 ここで、原始的な系統の菌栽培性のアリの属であるApterostigmaの種から共生細菌を分離する際に、しばしば得られた子嚢菌門Phialophora属に近縁な黒色酵母の系統群は、アリのコロニー内と周辺で蔓延し、菌栽培アリと共生的に結びつき、アリの体上における特殊なニッチを占めています。ここで筆者らは、調査と共生者間の直接的・間接的相互作用の影響をまとめることで、菌栽培アリと微生物の共生の生態群集内で起こっている複数の相互作用を結びつけました。具体的には、黒色酵母がアリ共生細菌を消費することで、アリと細菌の共生関係を利用しているという仮説の検証を行い、菌園の感染によるストレスを受けているアリと微生物の共生者における黒色酵母の影響を調査するため、アリのコロニーを実験的に操作し、微生物共生者間の生体外における一連のバイオアッセイを行いました。そして、黒色酵母の共生体がアリと微生物の共生において果たしている複雑な生態学的役目の機構的詳細を議論し、菌栽培アリの共生者たちが進化の時間を経て、生態学的群集の構築に一役買っている複数の間接的相互作用を示しました。

【要約】
 複数の種による共生は自然界では普通ですが、複雑な共生関係の中に生じている生態学的動態に関する理解というものは限られています。菌栽培性アリとその栽培する菌と抗菌物質産生細菌における三者の共生は、共生の複雑さの良い例です。筆者らは、アリと微生物のシステムの共生者であることが新たに分かった黒色酵母が、菌栽培性アリの細菌由来の抗生物質による防御作用を損なうことを明らかにしました。筆者らは、共生黒色酵母はアリの共生細菌から養分を獲得し、細菌の増殖を抑制していることを見つけました。黒色酵母に感染したアリが、Escovopsisという流行性の特異的な病原体に対し、菌園を保護する能力がが著しく低いということをアリのコロニーとその共生微生物を用いた実験操作により示しました。アリ共生細菌のバイオマスの減少は、おそらく黒色酵母により引き起こされ、菌園の病原体の抑制に有効な抗生物質の量も明らかに減少していました。アリと真菌の共生関係の成立は、菌園の健康状態に直接的に依存しています。したがって、黒色酵母がアリの菌園の寄生者への対処能力を損ねるという筆者らの発見は、共生の複合的な要素の1つであることを示しています。このことは、共生関係の完全な理解には、生態群衆構造における共生者たちの直接的・間接的な相互作用を調べる必要があるという大きな根拠となるでしょう。