放線菌のリベロマイシンA生合成遺伝子群が解明されたそうです

今日は微生物関連の面白いニュースがありましたので紹介します。

皆さんも今までに「抗生物質」という言葉を耳にしたことがあるかと思います。
抗生物質というと「バイキンを殺す」といったイメージでしょうか?

放線菌という細菌の仲間は抗生物質を生産することで知られており、古くから利用されています。
例えば、ストレプトマイセス属の放線菌から見つかったストレプトマイシンが代表例として挙げられます。

その放線菌の仲間には骨粗しょう症やがんの骨転移を抑える薬の候補として注目されている「リベロマイシンA」を生産する菌(Streptomyces reveromyceticus)がいるそうです。今回の発見では世界で初めて「リベロマイシンA」の生合成に関わる酵素の遺伝子を突き止め、その酵素を使って試験管内で反応を再現することができたというのです。

独立行政法人理化学研究所プレスリリースより
http://www.riken.jp/r-world/info/release/press/2011/110606/detail.html

引用開始
"◇ポイント◇
骨転移がんや骨粗しょう症を抑えるリベロマイシンAの生合成遺伝子を21個同定
生理活性に重要なスピロアセタール環を、効率よく生合成する2酵素を発見
薬の種となるスピロアセタール環の創製研究の進展に期待

独立行政法人理化学研究所野依良治理事長)は、土壌中に存在し、抗生物質の生産微生物として知られる放線菌の仲間が、骨粗しょう症やがんの骨転移を抑える薬の候補として注目されている「リベロマイシンA」を生合成するメカニズムを、世界で初めて遺伝子レベルで明らかにしました。
(中略)
本研究成果は、英国の科学雑誌『Nature Chemical Biology』オンライン版(6月5日付け:日本時間6月6日)に掲載されます。"
引用終わり

『Nature Chemical Biology』オンライン版への掲載ページはこちら
http://www.nature.com/nchembio/journal/vaop/ncurrent/full/nchembio.583.html


実験として重要なポイントは
リベロマイシンAの生産量を変動させる条件がわかっていたこと(トマトエキスの添加)
・発現が変動する遺伝子群を解析できる手法(RT-PCR解析法)で遺伝子を21個まで絞り込めたこと
・4つのポリケチド合成酵素(RevA、RevB、RevC、RevD)を同定したこと
・RevA、RevB、RevC、RevDの機能ドメインから予測された生合成産物の構造と実際に放線菌が作る安定な中間体の構造が一致したこと
・”スピロアセタール環は酵素を使わない反応で生合成される”と考えられていた従来の考えを覆し、RevG、RevJの2つの酵素を用いて、スピロアセタール環を立体特異的に生合成していることを、世界で初めて明らかにしたこと
・実際に酵素を用いて試験管内で反応を再現できたこと

などがあげられるのではないでしょうか。

今回の成果はリベロマイシンAの生合成メカニズムを明らかにしただけにとどまりません。
一般的に酵素反応を利用することで、有機溶媒や触媒を用いる化学合成よりも反応条件を穏やかにすることができる上に、余計な副産物の生成を防ぐことができます。
現在化学合成により生産されている化合物を酵素による生産に切り替えることで、環境への負荷を低減しながら、より純粋な化合物を効率的に生産して、より安全な薬を生産できるようになるかもしれません。また、化合物の構造を少し変化させてより効果を高めるなど、新しい薬を作る上でも非常に役立つ研究であることは間違いないでしょう。


それにしても、放線菌にトマトエキスを与えると酵素生産が上昇するという点も面白いですね。

(著者/K.K.)